戦後の香港に生まれ、貧しい蛋民(水上生活者)の夫婦に売られた中英混血の男児・華泉(ワーチュン)がイギリス企業の幹部となるまでを、実話に基づいて描いたヒューマンドラマ。親戚関係にあった黎華安と盧金泉という2人の実在する人物の物語を1人の人生として脚色している。80年代から香港映画界を牽引し、『ホームカミング』(84)や『レッドダスト』(90)などで知られるイム・ホー監督の7年ぶりの作品となった。イギリス植民地下の香港で混血であることから差別され、アイデンティティに悩みながらも成功を求めて努力を続ける華泉の姿は、香港が戦後歩んだ歴史とそのまま重なって見えてくる。
アーロン・クォックがエキゾチックな容貌を活かして、20代から50歳までの華泉を熱演。華泉を演じるにあたり、妻・娣(タイ)役のチャーリー・ヤンと共に“蛋家話”という水上生活者が話す難しい方言を学んだ。その結果、外見だけでなくその内面を見事に演じたと高い評価を受けた。華泉を取り巻く女性たちに扮した女優もそれぞれ好演を見せている。仕事のパートナーである菲安(フィオン)役のアニー・リウは自信に満ち溢れた魅力的な女性を演じ、若き日の母役を務めたジョシー・ホーも、短い出番ながら印象に残る演技を披露。中でも、中年以降の母を演じたベテラン女優パウ・ヘイチンが出色だ。華泉に寄せる母の深い愛情や、無学だった彼女が文字を学び自分の力で生きていく様子が静かな感動を呼ぶ。
監督は主人公の50年という歳月を大胆に切り取り、1967年の反英運動、ベトナム戦争や1997年の香港返還などの歴史的事件を折り込みつつ、時に寓話的なタッチも交えて綴っていく。そこからは、香港とそこに生きた人々への強い思いが感じられる。